のそみ牧場学園開設の思い

これまで私は40年以上、発達に問題をもつ子どもたちを伸ばすのは、様々な適切な療育を適時的に与えていくことであると信じてきました。それは決して間違いではありません。それも必ず必要です。何年もの間私は都会の中で療育をしてきました。IQやDQを上げることが直接的な目的にしていました。認知や言語が伸びることが、全ての発達につながると、信じてきました。それにより、漢字が読めるようになったり、英語や外国語に興味を持ったり、お話が上手にできるようになったなど、想像以上の能力が上がっている子どもが多く、それが「成果」であると思っていました。成人してから久しぶりに教え子たちに会いますと、それぞれにとても頑張って、当時想像していた以上に生活をエンジョイしている姿は感動さえ覚えます。

しかし療育をしていた当時のことを思い出すと、今も懸命に頑張っている彼らですが、その時から私は「がんばれ、頑張れ!」と小さな背中を押してばかりいました。それが本当によかったのか・・。幼少の時にしか味わえない楽しみや余裕を持った生活、美しいものに感動したり、他からの温もりなどをもっともっと経験させてあげられなかったのかと、心から猛省し考えるようになりました。

子どもたちの心や身体の成長は、自然の中で自然とともに生活していくことがとても大切なのではないかと気づき、私はこの千葉木更津の自然豊かな馬来田の土地に「のぞみ牧場学園」を2002年に開設いたしました。自然というのは、山や川などの環境的条件もそうですが、動物たちなど私たちと同じ生き物との共存、両方を意味します。

のぞみ牧場学園では、もちろん子どもたちへ音楽療法や作業療法、心理や言語聴覚療法、そしてアニマルセラピーや乗馬セラピーなど、さまざまな質の高い療育をほぼ毎日行います。同時にこの素晴らしい自然があります。バランスの良い発達には、最善の環境を提供できるのではないかと確信しています。

ここ学園のある馬来田の森の自然は溜息の出るほど素晴らしいのですが、とても過酷です。強風が吹くと山のたくさんの竹がヒュールルと大きな音を立てて揺れ、また雨が降り木々の葉に当たる音はバタバタと壊れたタンバリンのようです。また一旦雪が降ると、街中ではもうすっかり消えていても、馬来田の山の上では数十センチ積もっていることがよくあります。一つひとつに自然の驚異を教えられます。坂の多い学園内では毎日が登り下りでフーフー言いながらも、いつの間にか足腰が鍛えられ、舗装していない広い園内では何回も転び泣きながらにも、自然に転ばない歩行や駆け足を身体が学習していきます。

毎日一緒に生活をしているたくさんの動物たちは、嫌なことをすれば逃げていき、無理強いすればコケッコと嘴でつつきます。子どもたちが、自分の思いだけで相手に向かうことができないこと、相手に受け入れられるには、他者への向き合い方を変えることの必要性を教えられます。また乗馬では、お尻からの温もりと共に心地よい揺れによって、気づかぬ内に心と身体を癒してもらえます。

私は長年緑の少ない都心で療育施設を運営しながら、こんな自然の中での子どもの育ちを夢見ていました。私自身もこんな自然の中で育っていたら、きっと違う人生を歩んでいたかもしれない、違う大人になっていたかもしれないと考えてきました。特に障がいを持っている子どもたちは、生まれてからずっと心配の連続で、卵の白身に囲まれた黄身のように周囲から守られ、強い依存心やワガママに成長している場合が多く見られます。いつも心配していた保護者から、知らず知らずのうちに過保護や過干渉で育てられ、大人になった時、それがどんな過酷なダブルハンディとなっていくのか・・。イヤというほど見てきました。

私はこれまで、多くの障がいを持つ子どもが成長していく姿に接してきました。いつの日でも、その子どもたちが成長した時に、幸せな暮らしをして欲しいと願い、その親子や家族に不十分で不満足ながらも寄り添ってきました。そして現在、そのお子さんが幸せに暮らせることとは何かと考えると、その当事者だけの問題ではなく、家族全員が幸せにならなくてはいけないと考えています。特に保護者です。子どもの幸せな人生は、早期療育や環境からの学習による確実な成長、同時に幸せを感じている親が実現してくのだと私は考えています。子どもを幸せにするには、保護者が幸せでなくてはいけないのです。

幸せというのは、お金や学歴があることではありません。それは保護者が、子どもの「現実的な将来をきちんと見据え」、「子どもに合わせた目標を持ち」、特に「きょうだいを幸せにすることを考え」、そして保護者自身の「心地よいワールドを見つけ」、「具体的な人生の夢を持てること」だと思うのです。その内容や方法は、お一人お一人違います。それをのぞみ牧場学園在園の間にご一緒に考えて、お子さんが小さいうちに気づいてくださったら嬉しいと思います。これからご一緒に人生の夢を描きましょう!

社会福祉法人のゆり会理事長・臨床言語士
津田 望

津田望プロフィール

1986年英国ロンドン市大学大学院修士ディプロマ修了。臨床伝達学専攻。同年全英圏臨床言語士資格取得。1990年のぞみ発達クリニック(東京都)開設。2002年児童発達支援センターのぞみ牧場学園(千葉県)開設。2015年障害者就労支援施設のぞみワークショップ(千葉県)開設。2018年障害者就労支援のためのカフェのぞみ。独協大学講師、瀬川神経学クリニック、のぞみ発達クリニック所長、のぞみ牧場学園施設長などを経て、現在社会福祉法人のゆり会理事長、のぞみ療育グループ代表。

津田望略歴

1986年 英国ロンドン市大学大学院修士ディプロマ修了 臨床伝達学専攻
1986年 全英圏臨床言語士資格取得
1990年 のぞみ発達クリニック開設
2002年 児童発達支援センター のぞみ牧場学園開設
2015年 障害者就労支援施設 のぞみワークショップ開設
2018年 障害者就労支援のための カフェのぞみ開設
独協大学講師、瀬川神経学クリニック、のぞみ発達クリニック所長、のぞみ牧場学園施設長などを経て、現在社会福祉法人のゆり会理事長、のぞみ療育グループ代表。

津田望著書

子どもの発達に 「あれ?」と思ったら読む本 ママとパパへのエール(幻冬舎)

まずは知ることから。
子どもへ愛が伝わる向き合い方を専門家が解説。

「わが子の発達が遅いのではないか?」
そんな不安があるとき、または障がいをもつと分かったとき、
果たして親としてどのような行動をとればよいのか――。

そんな悩みを抱える保護者に向けて、
専門家の著者が、障害のある子どもの育て方について分かりやすく解説する一冊。

・子どもの目を見て笑顔で共感する
・子どもの手伝いをし過ぎない
・毎日1分間子どもをハグする

など、誰でもすぐに取り入れられるちょっとした心構えや行動を具体的に指南。
さらに、子どもを持つ親自身が幸せな人生を送るためのアドバイスも紹介する。
さまざまの親子と接してきた著者ならではのアドバイスに、きっとあなたの気持ちも楽になるはず。

 

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